家族や身近な人が認知症になった場合、あなたは適切に対応できるでしょうか。
認知症ケアはポイントをおさえておかないと、誤った方法で介護を行ってしまうかもしれません。
そこで今回は、認知症ケアで大切なことや家族として知っておくべきことについて解説します。
認知症とは
認知症とは、老化や病気、障害などの影響により記憶能力や判断能力が低下する状態のことを指します。認知症の種類はいくつかありますが、脳にアミロイドβという物質が溜ってしまうと、脳が萎縮しアルツハイマー型認知症を引き起こします。脳の神経細胞の変形により、少しずつ脳が委縮して私生活に影響を及ぼします。
認知症とよく間違われるのが、老化です。物忘れや人の名前を忘れることがありますが、老化は認知症と症状が少し異なります。認知症は老化よりも忘れるスピードが早く、そもそも忘れたことに気づいていないケースが多いです。老化か認知症かの判断は、医療機関で診察してもらわないと正確にはわかりません。
認知症の割合
認知症の割合は、高齢化の影響から増加傾向にあります。現在の65歳以上の高齢者では、16%の方が認知症といわれています。2025年の認知症の患者数は18%を超え、高齢者の5人に1人が認知症になると予測されています。認知症がますます増えることが予測されるため、認知症と向き合っていくためには、原因や対策を理解して対応していくことが求められます。
認知症の症状
認知症は、もの忘れがひどくなるだけでなく、記憶力の低下や精神状態の不安定などさまざまな状態を引き起こします。認知機能の低下が起こった際の行動・心理症状について確認すると、認知症がどのようなものかを理解できます。認知症患者の症状について確認しましょう。
認知機能の低下
認知機能の低下が起こると、次のような症状を引き起こします。
記憶障害
記憶障害は、同じ事を繰り返し聞いたり約束を忘れたりするのが主な症状です。物の管理場所を忘れる方や薬を飲み忘れる方は、認知症の可能性があります。
言語障害
言語障害が起こると、上手く話せなくなります。言葉の意味がわからず、理解力の低下が起こり、コミュニケーションがとれなくなります。
注意障害
注意障害は、注意が散漫になり集中力が低下します。同じことを同時に行えなくなる特徴があります。
見当障害
見当障害は、自分が今どこにいるのかわからなくなり、迷子になることがあります。日付も理解できなくなり、着ていく服を選べない方もいます。見当障害が進行すると、家族や友人のことを忘れてしまいます。
実行機能障害
実行機能障害は、計画的に物事を進められなくなります。買い物や家事などを行えず、実行機能障害が進行すると、電子レンジやドライヤーなどの電化製品の使い方がわからなくなります。
行動・心理症状
認知症の患者の症状は、もの忘れだけではありません。認知症患者は予測できない行動をとるため、認知症患者の行動や心理症状について知っておくことが重要です。認知症患者の行動や、心理状態をいくつか紹介します。
無関心
何に対してもやる気が起きず、無関心になることがあります。認知症ではない方も無関心になることがあるため、無関心だけで判断するのは難しいです。
暴言や暴力
怒りの感情が現れ、物や人に危害を加える場合があります。急に暴力的になった場合は、認知症の疑いがあります。
抑うつ
不安な気持ちになり、うつ状態になることがあります。通常のうつ病か認知症の抑うつかどうかは、専門機関で診療しないと正確にはわかりません。
徘徊
目的もなく歩き回り、迷子になることがあります。深夜に一人で歩き回る認知症の方もいるため、介護する際は注意が必要です。徘徊は、認知症患者の典型的な行動のひとつです。
睡眠障害
睡眠時間を確保できず、睡眠バランスが崩れる場合があります。認知症患者の睡眠の質について確認してください。
認知症の治療について
認知症を完全に治すことは、現代の医学ではできません。しかし、認知症を緩和させることは可能であり、いくつかの治療方法を組み合わせて行うのが望ましいです。
認知症の治療方法には、薬物療法や非薬物療法、精神療法などがあり、認知症の症状に応じた療法を行う必要があります。ここでは、3つの治療方法について具体的に解説します。
薬物療法
認知症を緩和させたい場合は、NMDA受容体拮抗薬やコリンエステラーゼ阻害薬などの投与が有効とされています。しかし、認知症が重度の場合は薬物投与でも進行を緩和できないことがあります。
また、認知症を遅らせる治療薬の研究が近年急速に進んでいます。アルツハイマー病にかかわるアミロイドβに作用する薬が研究されており、認知症に有効な薬が開発されています。
非薬物療法
薬を使用しない非薬物療法もあります。運動療法が非薬物療法として有効とされており、認知症の状態に応じて行われます。認知症を完全に治すことは難しいですが、行動や心理状態の改善は期待できます。
精神療法
精神療法で、行動や心理状態の回復を行える場合があります。認知症により自己肯定感が喪失している場合は、メンタルケアがとくに重要です。医師によるメンタルカウンセリングで改善する場合や、家族との関わりで精神を安定させられる場合があります。
家族が認知症患者と接する場合は、共感や後押しの気持ちが大切です。認知症患者と上手くコミュニケーションがとれないからといって、共感する気持ちをなくすと認知症がさらに悪化する場合があります。共感して見守ってあげると、認知症の進行を遅らせられる場合があります。
また、介護を行う際はご自身の体に負担をかけすぎないように注意しましょう。健康を犠牲にして介護を行うと、介護者の体力が限界になり体を壊してしまうかもしれません。介護が厳しいと感じた場合は、早期に医療従事者など専門家に相談することをおすすめします。
認知症ケアとは
認知症患者の尊厳を守りながら介護するには、認知症ケアの基本を理解する必要があります。認知症ケアの具体的な方法について知ることで、どのように介護すべきかを理解できます。認知症ケアの考え方や認知症ケアの必要性について、確認しましょう。
認知症ケアとは
認知症ケアとは認知症患者の権利を尊重し、安心して暮らせるように支援する考え方です。認知症ケアの考え方は厚生労働省により定められており、以下の4つの基本的な考え方があります。
身体と心のケア
認知症患者の状態により、生活を支援することを目的とします。
関係性
人間関係を重視し、なじみの空間を保持します。
継続性と専門性
認知症の症状により、専門的な対応を行います。
権利擁護の必要性
認知症患者の意思の尊重と代弁を行います。
認知症ケアの必要性
認知症ケアは、単に認知症患者の身体的改善が目的ではなく、尊厳や生活の向上も目指します。認知症ケアの適切な方法を理解できると、家族の方でも上手くサポートを行えるでしょう。
認知症ケアを理解するためには、まずは認知症の症状や原因を知る必要があります。認知症の症状を知らないままケアを行うと、介護者の負担が大きくなります。
認知症ケアの内容
具体的な認知症ケアの内容を理解できると、適切な介護を行えるでしょう。認知症ケアの内容について解説します。
健康管理
認知症患者のなかには、ご自身の体調を訴えられない場合があるため、健康管理が非常に重要です。認知症の症状にもよりますが、本人にすべてを任せるのではなく、ご家族のサポートと理解が必要です。
まずは、認知症患者の日常生活を確認しましょう。水分摂取やトイレ、薬をきちんと飲んでいるかなどを確認して、もしできていない場合はサポートしてあげてください。
健康管理を行う際は、メモをして記録に残しましょう。記録をしておくとすぐにわかるため、認知症の進行状況についてすぐに確認できます。メモを見ながら医師とも相談できるため、日付とできなくなったことをチェックしてください。
生活習慣の確認
ご家族は、生活習慣の確認をしてあげてください。認知症を患うと日々の生活習慣が乱れるため、介護者がサポートする必要があります。認知症の方が普通の生活をできずに、不安に感じているかもしれません。
暮らしやすい環境づくり
暮らしやすい生活環境を整えることも重要です。今までできたことも、認知症が進行するとできなくなることが増えます。認知症の症状を確認して、暮らしやすい環境にしてあげましょう。
環境改善を行うことで、ストレスや不安を軽減できます。段差をなくしたり手すりをつけたりすると、けが予防にもなります。認知症の方でもわかりやすいように、トイレの使い方などを文字や図で書いてあげるのもよいでしょう。
暮らしやすい環境づくりを行う際は、環境を改善したあとの反応をきちんと確認する必要があります。認知症患者は、環境の変化に対応するのが難しい場合があるため、環境を変えることで余計に症状が悪化する場合があります。症状を確認しながら環境を変えることが重要で、暮らしやすい環境づくりで迷った際は医療従事者などの専門家の方に相談し、進めていくことをおすすめします。
コミュニケーションをとる
認知症ケアでは、会話を積極的にすることが非常に重要です。認知症患者が、上手に話せなくなったとしても、会話をすることを止めてはいけません。コミュニケーションを取り続けることで、大切にされている気持ちが伝わるため、広い心をもって接することが大切です。
しかし、コミュニケーションをとる際は、スキンシップのとりすぎには注意が必要です。認知症の方であってもプライバシーは守る必要があり、過度なスキンシップを嫌がる方もいます。人との距離感を忘れずに、認知症ケアを行える関係を意識しましょう。
リハビリを行う
リハビリを行うと、認知症を遅らせられる場合があります。家族がリハビリを行う際は、日常生活に関連した訓練をいっしょに行い、食事や入浴の際に患者自身でできるようにサポートしてあげてください。ただし、家族だけで長期間リハビリを続けるのは体力的、精神的にも負担がかかるため、きちんとしたリハビリを行いたい場合はリハビリステーションなどの利用を検討しましょう。
認知症ケアを行う際の注意点
認知症ケアを行う際は、注意する点がいくつかあります。注意点を意識せず認知症ケアを行うと、認知症の方の心を傷つけてしまう可能性があります。具体的にどのような点に注意すべきかを確認しましょう。
プライバシーやプライドを尊重する
認知症患者のプライバシーやプライドを尊重しましょう。意思疎通ができなくても、プライドを傷つけるような発言をしてはいけません。相手を尊重しない言葉で話しかけると、認知症の進行を防止できず、症状を悪化させてしまう場合があります。認知症の進行を遅らせるには、生活の質を向上するようにサポートすることが大切です。
相手の気持ちを理解する
相手の気持ちを理解することが重要です。認知症患者とはコミュニケーションをとるのが難しい場合が多いですが、丁寧に会話することを意識してください。認知症患者も伝えたいけれど上手く伝えられないことがあり、ストレスを感じている場合があります。
ご家族は、認知症の方の気持ちを共有することを心がけましょう。何を話したいか、何を食べたいかなど、ともに考えることで認知症患者の気持ちを理解することにつながります。
ペースを理解する
認知症の方のペースを把握し、理解しましょう。認知症を患うと今までの生活は難しいため、行動のペースが遅くなります。行動や判断が遅くなっても、温かい心で支援する気持ちをもってあげてください。
認知症の方のペースを乱してしまうと、ストレスを与える原因になります。状況によっては、どうしても認知症患者のペースに合わせられない場合もあるでしょう。そのような場合は、介護者のペースに合わせつつ、認知症の方の尊厳を守りながら対応してあげてください。
成功したらほめる
成功したら、ほめることが重要です。できたことをほめることで、できなかった不安やストレスが一時的に改善される場合があります。失敗に目を向けるのではなく、成功に目を向けましょう。
失敗した際に叱ってしまうと、精神的に落ち込んで不安に感じてしまいます。不安やストレスは認知症を進行させる恐れがあるため、できたことに注目して接しましょう。どうしても対応が難しい場合は、ケアマネージャーや介護士などの専門家に相談しましょう。
わかりやすく説明する
会話をする際は、わかりやすく説明してあげましょう。難しい言葉は、わかりやすい言葉に変換してください。簡潔に話すことが重要であり、話し言葉が長いと認知症患者にとっては理解が難しくなります。
また、会話のスピードも意識しましょう。表情を確認しながらゆっくり話すことを心がけて、認知症患者のペースに合わせることが必要です。
認知症ケアで意識すべきこと
介護者の方で認知症ケアについてお悩みの場合は、一人で抱え込まないことが重要です。ここでは、介護者の方が認知症ケアを行う際に意識しておくべきことをいくつか解説します。
周りと相談する
認知症ケアを行う際は、周りと相談しながら行いましょう。一人で頑張ろうとすると、介護者の負担が大きくなり対応しきれなくなる場合があります。自分以外にも家族がいる場合は、複数人で対応して負担を分散させることが重要です。
家族で対応できなくなった場合は、認知症支援センターに相談しましょう。専門家に相談することで、認証ケアについてアドバイスがもらえます。家族で認知症ケアが難しい場合は、訪問看護サービスを検討するのもよいです。
認知症は、適切な対応を行わないと進行を遅らせることができません。認知症の対応で迷った際は、早めに専門家に相談することをおすすめします。
自由な時間を作る
介護者の方は、自由な時間を積極的に作りましょう。認知症ケアを行うと、身体的だけでなく精神的にも疲れます。自由な時間を作り、ご自身の趣味や息抜きをすることが重要です。自由な時間を確保せずに認知症ケアを行うと、介護者の体が壊れてしまうかもしれません。ご自身の体調も考えながら、認知症ケアを行いましょう。
まとめ
今回は、認知症ケアの大切なことや家族として知っておくべきことについて解説しました。認知症ケアは一人で抱え込まないことが重要であり、周りの方と相談しながら進めるのが望ましいです。
認知症ケアを行う際に、わからないことや不安に感じる方は専門家に相談することが重要です。認知症は早急に対応しないと手遅れになることがあるため、早い段階から訪問看護サービスなどを上手く活用しましょう。