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訪問看護リハビリステーションSORAのブログ

在宅療養コラム~認知症編その2

認知症はご本人に病識が無いことも多く、BPSD(周辺症状)は個人差も大きいためサポートに困難さを生じる場合があります。
しかし環境や声掛けなど少しの工夫をすることで受け入れていただけることもまた多くあります。

今回はSORAで支援させていただいたある利用者様の事例をご紹介させていただきます。

【人物・背景】

Aさんはアルツハイマー型認知症を呈する80代の女性です。
豊島区の認知症初期集中支援チームを経て、当事業所が介入しました。
独居で視力障害がある方で、ラジオや音楽を聴き過ごされていました。
しかし認知機能の低下に伴い身の回りのことが段々とできなくなったり、転倒を繰り返すようになっていました。

「大丈夫です。」と他人に頼れない性格であり、他者の介入については拒否の姿勢が強くみられていました。

【介入時の問題点】

① 見当識障害(日付や人の顔が認識できない)
② 介護拒否(自宅へ介護者を入れるのに抵抗がある)
③ 服薬管理
④ 清潔ケア
⑤ 意欲低下
⑥ 体力低下

【問題点への対応内容】

① 見当識障害 ② 介護拒否

認知症初期集中支援チームの介入により「地域のどこかから来る、なんとなく見覚えのある人」というのがご本人の中に定着しつつありましたが、認知症初期集中支援チームからの引継ぎ以降も看護師が訪問すると、
「なんですか。」「今日は大丈夫ですよ(必要ないですよ)。」と警戒心があるご様子でした。

そのため引継ぎ以降も「いつも来ている看護師です。」と名乗ることで、ご本人にとって抵抗感の少ない人物として認識してもらうことで介入を進めました。

<ポイント>

Aさんの場合、視力障害や人の見当識障害があり、知らない人が家にやってくることへの不安感があったと思われます。
認知症になると記憶することが苦手になるため「この人はだれだっけ。」「会ったことある人かしら。」と不安を抱えて過ごすようになります。そのため”訪問看護師が来ている”ことを認識してもらうことよりも、よく知らないけれど自分を心配して顔を見に来る「いつもの看護師」である必要がありました。

③ 服薬管理

Aさんは認知症による記憶障害や判断力の低下により通院ができなくなりました。
「薬の必要性が分からなくなる」「薬を飲むこと自体を忘れる。」という状態に陥っていたと思われます。
そこに視力障害やBPSDという行動・心理の問題が重なることで本人が薬を飲むことにストレスや混乱を感じ、通院の中断や服薬管理ができなくなったと思われます。

<ポイント>

確実にお薬を飲んで頂くために毎日支援者が入り、毎回手渡しでお薬を飲んで頂くことにしました。
看護師は週二回の介入でしたので、他の日はヘルパーさんに服薬介助を依頼しました。

認知症状に加えて視力障害もあるため、服薬時には「今日のお薬を飲みましょう。」「看護師がお薬を手に出しますね。」など、具体的に何をするのか分かりやすい言葉で説明しながら、薬を落とさないよう手を添えてお渡しするなど安心して服薬できる工夫を行ないました。

認知機能の低下や視力障害はありながらも服薬時のお水の用意はお声掛けするとご自身で行なえる方であったため、残存能力を尊重しつつ関わることも大切にしていました。

④ 清潔ケア

認知症になると入浴手順は複雑で負担が大きいものです。
入浴は服の着脱、体を洗う、湯につかる、体を拭く、ドライヤーで髪を乾かすなど多くの行程があります。
認知症による実行機能障害(手順や段取りをこなすのが苦手)になるとこの行程を踏むのが非常に難しくなります。

認知症により人物の記憶が苦手になっているところへ看護師(外から来たよく知らない人)がお風呂を勧めてきたら断るのは自然なことと思います。

<ポイント>

認知症であっても感情記憶(楽しい、好き、嫌い、つまらない等)と長期記憶(若いころの記憶)は最後まで残ると言われており、認知症の人とのコミュニケーションではこの二つの記憶を活用するのがポイントです。
介入当初は清潔ケアへの拒否がありましたが、焦らず会話などを通して関係づくりに努めました。
ときにはAさんの聴きたい曲を伺いYouTubeで流したり、ご自宅のラジカセから音楽をかけたりと好きなものや心地良いと思える感情を引き出せるよう工夫しました。

その中でご本人にとって抵抗感の少ないと思われるケアとして、爪切りのお手伝いを申し出たり、小さなケアを通してさらに関係を深めていく中で足浴、清拭、入浴と段階を踏んで介入していくことができました。

顔が分からなくても、名前を忘れてもその人と話したときの感情については残っていると言われています。
安心を引き出すコミュニケーションにより、Aさんの穏やかな表情や笑った声を聞くこともできるようになり、清潔ケアへの介入にも繋げることができたと思われます。
最後には「お風呂に入りましょうか。」のお声掛けで、自らお風呂に入る支度をされるまでになりました。

⑤ 意欲低下 ⑥ 体力低下

認知機能が低下すると精神症状(抑うつ、意欲の低下、易怒性、興奮など)も現れやすくなり、引きこもりがちになったり脳を使わない生活を送ってしまったりと認知症の進行や社会的孤立に拍車をかけてしまうことがあります。
身体活動が減少すると更なる脳機能の低下やBPSDを招く可能性があり、Aさんの場合も認知症の精神症状に伴い外出機会の減少や日中の臥床時間が増えていき、体力低下や活動性低下が見られ、室内での転倒にも繋がっていたと思われます。

<ポイント>

看護師との関係性が築けた後にリハビリ介入を試みたところ受け入れは良好でした。

リハビリでは転倒予防として筋力トレーニングや歩行練習などを行ないました。
普段から会話が少なく、意欲低下もあったため、お好きな音楽を掛け曲に合わせて運動することで記憶と感情の活性化やコミュニケーションの促進へと繋がるよう工夫しました。
また、ラジカセの準備などできることはご自身でやっていただくことで、ADLの維持や意欲向上に努めました。
音楽を聴くと体を揺らすなどの反応を見せて下さり、心身共に良い影響があったのではないかと思います。

【最後に】

今回のケースでは認知症に加え、視力障害も生じていたためコミュニケーションにも工夫が必要でした。
認知症における行動や症状は周囲の関わり方により左右されることが多くあります。
ご本人がどのように捉えていたかは想像の範囲を超えませんが、安全な人、親切な人、信頼できる人と思ってもらえる関わり方により良好な関係が築け、良好なケアに繋がったと考えます。

認知症ケアでは個人の性格やこれまでの人生、趣味、習慣といった「その人らしさ」を尊重したうえで認知症の方へ接することが求められるため、一概にこれが正解というものはありませんが、今回の事例が今後の支援の参考になれば幸いです。

 

参考文献
・「マンガでわかる!認知症の人が見ている世界」  文響社
・「マンガでわかる!認知症の人が見ている世界2」 文響社

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(2025年10月現在)
『認知症ケア専門士』:1名
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